平成23年度公益社団法人日本コンクリート工学会北海道支部
優秀学生賞の表彰

平成24年5月8日に行われた北海道支部総会の会場で、昨年度の優秀学生賞について報告がされました。 優秀学生賞授賞審査委員会委員長の田畑雅幸氏から選考経過・審査方法について説明があり、表彰理由が紹介されました。 受賞者には表彰状と賞品,および,副賞としてJCI会員資格1年分が授与されております。

日本コンクリート工学会北海道支部優秀学生賞授賞審査委員会
委員長 田畑 雅幸

選考経過

平成23年度JCI北海道支部優秀学生賞として修士論文2編,卒業論文2編の応募があった。平成24年2月10日に応募を締切り,同日審査方法の確認を行い,2月24日に審査委員5名の審査結果の集約を行い,2月29日に平成23年度JCI北海道支部優秀学生賞授賞審査委員会を開催(E-mailを利用)して,以下の応募者を推薦することに決定した。

選考方法

選考方法は,例年と同様の方法とした。ただし,例年3件程度としているが,役員会において優秀であれば3件以上としてよい旨の了承をいただいている。

  1. JCI「コンクリート工学年次論文集」論文審査要領の採否の判定基準に準じる。即ち,@「新規・独創性」,A「発展性」,B「有用性・実用性」,C「完成度(卒論は理解度)」,D「成果・現象解明」の5項目について,提出された論文を評価する。評価は,各項目を3段階で評価し(「評価せず:0点」,「良い:1点」,「大変良い:2点」),合計点を評価点とする。
  2. 委員5名全員による評価点の合計が30点以上(審査員の合計点数は50点満点)の論文を対象とする。

優秀学生賞受賞者

委員会にて慎重に審査の結果,優秀学生賞として次の4人に決定した。

1. 折曲げ定着された鉄筋の定着耐力に与える多段配筋の影響に関する実験的研究
川角 佳嗣 (北大大学院修士課程修了) 推薦者 後藤康明
2. 無筋コンクリート海岸構造物のひび割れ幅に基づく新しい劣化度判定基準の提案
古谷 宏一 (北大大学院修士課程修了) 推薦者 横田 弘
3. 焼成ホッキ貝殻を混入したモルタルの膨張特性について
上村 清志 (苫小牧工業高等専門学校専攻科卒業) 推薦者 廣川一巳
4. コンクリートのひび割れ面の応力経路を可変動制御する実験手法の開発−圧縮強度Fc:40MPa−
榊 竜馬 (北海道能力開発大学校卒業) 推薦者 和田俊良

決定理由

1. 折曲げ定着された鉄筋の定着耐力に与える多段配筋の影響に関する実験的研究

(理由)

本研究は,鉄筋コンクリート造構造物の柱梁接合部の定着性能について実験により考察を行ったものである。建物端部にある柱に対して梁を定着する際に,主筋を折り曲げて定着するのが一般的であるが,基礎梁のような大きな応力を負担する部材で用いられる多段配筋に対する定着耐力・せん断耐力の評価法については知見が少ないため本研究が行われている。
本研究では,実大の約1/2の模型試験体を製作し,定着性能を検討する10体の引抜実験およびせん断破壊との関係を考察する2体の部材実験を行っている。定着破壊現象を考察する引抜実験では,主筋の定着投影長さによって掻出し定着破壊面の形成位置が異なることを指摘し,実験値と鉄筋の段位置に想定される定着耐力計算値との比較を行い,多段配筋での適用法を提案したところに研究の特徴が見られる。また,別の破壊形式であるコンクリートの局部圧壊に対しても,実験データについて注意深く再検討を行いその破壊の可能性を慎重に否定している。また,部材実験では鉄筋の直線定着部の付着の効果について,既往の実験データを引用しながらその傾向を示した点が評価される。本研究で得られた結果はコンクリート構造物の実施設計にとって大変有意義な知見であるとともに,今後の学術的発展が期待できる。以上の理由により,平成23年度JCI北海道支部優秀学生賞にふさわしいと判断した。

2. 無筋コンクリート海岸構造物のひび割れ幅に基づく新しい劣化度判定基準の提案

(理由)

本研究では,無筋コンクリート海岸構造物(防波堤胸壁)の現地調査を実施し,無筋コンクリート海岸構造物の老朽化の現状を把握するとともに.調査結果を確率統計理論に基づいた特徴的な手法により適切に評価し,施設の劣化状況を解明している.その結果,目視により簡易に測定できる鉛直ひび割れ幅から,施設の耐力低下に大きな影響を及ぼすひび割れ深さを推定する式を提案している.また,上記の知見に基づき,ひび割れの生じた防波堤胸壁を解析モデルに置き換え,ひび割れ深さ,ひび割れの本数,構造部材の寸法および想定する荷重を変化させて,非線形有限解析を行い,構造物が破壊するまでの挙動,初期ひび割れ深さの増加に伴う防波堤胸壁の耐力低下を示している.また,本研究では,目視点検で容易に測定可能なひび割れ幅を指標とする実用的な劣化度判定基準を提案するため,初期ひび割れ深さおよび初期ひび割れ本数と施設耐力低下の関係とひび割れ深さの算出式との関係を得ている.さらに,ひび割れ幅およびひび割れ本数を変化させた解析を行い,構造物の耐力低下との関係を示している.以上より,ひび割れ幅とひび割れ本数を指標とする構造物の耐力低下に裏付けられた新しい劣化度判定基準を提案している。
本研究の成果により,深刻化する今後の社会基盤施設の老朽化に対し,構造物の維持管理において簡便かつ効率的に無筋コンクリート海岸構造物の保有性能を評価でき,構造物の性能低下予測を精度良く行うことを可能としている.今後,さらにデータの蓄積および類似の構造物を対象とした研究を継続的に行うことで,より精度の高い性能評価法を提案できる発展性も高いことからも,優れた研究であると言える.以上の理由により,平成23年度JCI北海道支部優秀学生賞にふさわしいと判断した。

3. 焼成ホッキ貝殻を混入したモルタルの膨張特性について

(理由)

本研究は,ホッキ貝の産業廃棄物である貝殻の利用として,抗菌効果を有するコンクリート建材の開発を目指しており,その過程で,焼成したホッキ貝殻を10%程度置換して作製したモルタル供試体に異常膨張が確認され,その原因を解明することを目的としている。
焼成貝殻およびモルタルの分析を粉末X線回折,走査型電子顕微鏡,示差熱熱重量分析,蛍光X線分析等を行った。その結果,膨張原因が貝殻の焼成によりCaOに変化し,それと水が反応してCa(OH)2が生成されたことであることが明らかにされている。また,この反応の膨張は,石灰系膨張材と同様であることに着目し,焼成ホッキ貝殻が膨張材の代替材料あるいは原料の一部として使用することを想定し,膨張の定量評価に研究を広げている。
一般に膨張の定量評価は,JIS A 6202の膨張材評価の手法が知られているが,本評価に必要な打設直後からの膨張量の評価が困難である。ここで,初期の体積変化が問題となる自己収縮の試験法に着目し,比較的簡便に行えるASTM C 1698-09に準じた方法を,膨張の評価に適用している。これにより,打設直後からの長さ変化を評価を行い,有用なデータを得ている。
本研究の優れた点は,課題であった異常膨張の原因を特定したのみでなく,その膨張性状が工学的に役立つ可能性があることに着目した点であるといえる。また,性能評価にあたり,他分野の評価法を柔軟に取り入れる等,優れた研究といえる。以上の理由により,平成23年度JCI北海道支部優秀学生賞にふさわしいと判断した。

4. コンクリートのひび割れ面の応力経路を可変動制御する実験手法の開発−圧縮強度Fc:40MPa−

(理由)

鉄筋コンクリート部材の破壊について,ひび割れ面の応力経路の力学特性を検証することは極めて重要である。著者らは,ひび割れ面の応力−変位構成則からその噛合い効果を表現するインターロック応力比γとして,垂直応力をせん断応力で微分して新たに定義し,このインターロック応力比γによる増分形の応力経路を数学的に表示可能としている。一方,ひび割れ面の応力制御は難しく,その多軸制御手法は未開発の状況であった。そこで,本論文では,著者らが開発したひび割れ面の変位経路を自動制御する手法を拡張し,その応力経路を自動制御する手法を開発している。
本応力制御手法の特筆すべき点は,「コンクリートひび割れ幅を均一に3次元制御」しながらその垂直応力がインターロック応力比γから算出される目標垂直応力に収束されることにある。ここでは,ひび割れ面の誤差垂直応力を微小ひび割れ幅の増減によって収斂させる繰返しP比例制御法が採用され,高精度の応力制御を実現している。実際に,本手法を用いてインターロック応力比γ=0の垂直応力一定実験とγ一定有値実験を実施し,「せん断応力軟化現象」を新たに貴重な資料として計測に成功する等の成果を得ている。これらから,本手法の独創性と有用性が示されていると思われる。
コンクリートひび割れ面のせん断応力伝達機構に関する新たな物理的定義を導入し,これまで不可能であった「均一ひび割れ面幅による3次元応力制御手法」を開発し,貴重なせん断軟化現象の計測に成功しており,今後の学術的発展が期待できる。以上の理由により,平成23年度JCI北海道支部優秀学生賞にふさわしいと判断した。

表彰

表彰状等は受賞者の推薦者へ送付し,学位記授与式に合わせて受賞者へ授与していただいた。表彰では,賞状の他,賞品として5,000円の図書カード,副賞としてJCI正会員1年分の資格を与えた。なお,受賞者は,平成24年4月9日開催の役員会に報告し了承され,本日ここにご報告するものです。

日本コンクリート工学会北海道支部優秀学生賞授賞審査委員会
委員長 田畑 雅幸 北海道職業能力開発大学校
委 員 上田 多門 北海道大学
委 員 澤村 秀治 函館工業高等専門学校
委 員 武田 寛 北海道工業大学
委 員 長谷川拓哉 北海道大学